韓国の実話に基づく名作映画『タクシー運転手~約束は海を越えて~』。
こちらの記事では
『タクシー運転手~約束は海を越えて~』の
- 考察&解説
- 印象に残ったシーン
- この映画が好きな人におすすめの作品
について映画ファンの方に答えていただきました。
※映画本編の内容に言及しておりますので、未視聴の方はお気を付けください。
ぜひ『タクシー運転手』と一緒にチェックしてみて下さいね。
\配信状況はこちらでチェック/
映画『タクシー運転手』NETFLIXやAmazonプライムで配信見れる?
検問が主人公たちを見逃したのはなぜ?
物語の終盤で、主人公たちのタクシーが検問に捕まりピンチに。この時に1人の検問官が半ば強引に検問を通し、タクシーを見逃す一幕がありますが、この行動はどういったものだったのでしょうか。
現状がおかしいと自覚していたから見逃した
20代男性
ここは結構謎があると思います。正直あの検問官が出てきたのは初めてだし、これまで描かれた軍人も私服軍人の1人だけですし、彼の思想も描かれたわけではありません。
軍人たちが国民の行動に対してのどう思っているのか、軍人として正義をどう掲げて生きているのか、そもそも軍人たちがどういった情報や教育を受けているのかがわからないので、確実にこうだ!ということは難しいです。
ただ少し飛躍させるならば、彼があのナンバープレートを見た時、もしかしたら彼らがこの狂った状態を変えてくれるのではないか、と思ったのだと思います。
検問官としてではなく1人の人間として、韓国人としてこの現状がおかしいと自覚しており、その状態を変えてくれる可能性を自分が押さえつけると言うことができなかったのではと思いました。
心根から民衆を弾圧しているわけではないという主張
40代女性
あくまであの映画上での印象としては、あの軍人たちは上層部に従って民衆を弾圧している、心根から民衆を罰したいと思っているわけではない、という風に感じました。
もとは同じ国の人民であり、人間であるから、自分たちが嘘を追求したことで、明らかに事情があり弱い立場にある人々を自分たちで追い込むことへの忌避感があったのではないかと思いました。
あるいは事態が緊急下だったために、細かな確認などを面倒に思っただけ、小さな仕事だと考え、また非常時下の状況から上部からも追及されることもないだろうとも考えた上で行った行動で、ただ結果としてそれが主人公たちに利益をもたらしだけだった、そういう小さな幸運だったのかもしれないとも思います。
国民の命を奪う行為に疑問を持つ者がいたと伝えたかった
50代男性
ソウルに戻る主人公たちが検問で見逃された理由は、はっきりとは示されていません。
ですが、ここは事件当時の軍人の中にも、国民の命を奪う行為に疑問を持つ者がいたと伝えたかったのだと考えます。
丸腰の一般人たちを射殺するなど、軍の行動は残虐きわまりないものでした。
ただ、全ての軍人が望んでそうしていたはずはないと、監督は認識しているのでしょう。
軍に携わっていた人が全員100%の悪人ではなかったという見方は、観客にも当時の軍人にもわずかな希望になるでしょう。
また、そういう組織でも非人道的な行為に及ぶのだ、という警鐘にもなるでしょう。
この映画では、一般人を攻撃している際の制服軍人の表情はほぼ映りません。
一方で、検問で見逃した軍人の顔ははっきりと映っています。
両者を対比させる意図を持った演出でしょう。検問の場面が事実通りなのか、とても気になります。
主人公はなぜ"キム・サボク"という偽名を名乗ったのか?
映画のラストシーンで、主人公のキム・マンソプがピーターに名前を聞かれ、「キム・サボク」と偽名を名乗ります。
ピーターは帰国の後、マンソプを探しますが、教えられた名前が偽名であったため探し出すことができませんでした。
この時、なぜマンソプは本当の名前をピーターに教えなかったのでしょうか。偽名を名乗った理由を考察していただきました。
表舞台に出て住んでいる世界が変わってしまうことを恐れた
20代男性
これは表舞台に出たくなかったからだと思います。
ピーターと関わった2日間は凄まじいものでしたし、国の現状を大きく変える、歴史に名を刻めるほどの力になったのもマンソプにとって大変光栄だったことがラストの数年後のシーンからも窺えます。
しかし、マンソプはピーターとの関係を続けることで、自分自身が表舞台に出てしまい住んでいる世界が変わってしまうことを恐れたのだと思います。
家族を何よりも大事にしていると言うのが主人公からは常に見えます。
タクシードライバーになったのも亡き妻の影響ですし、光州でも常に娘を思っていました。
帰ろうとしたのも娘に心配させたくないからでしたし。
だからここで偽名を使ったのも娘のために静かに暮らしたい。そういった父性から来るものだと思います。
自分の名が望まない形で知れ渡ることを忌避した
40代女性
彼はあのとき既に多くの犠牲を見てきていました。
理不尽に無残に殺されていく状況を体験し、いわばその人たちの犠牲のおかげで自分たちが逃げ切ることができた、と考えたのかもしれません。
その上で本名を名乗ることは、相手が記者であることも鑑みて、自分の名がこのあと望まない形で知れ渡ることを忌避したのかもしれないと思いました。
自分を救ってくれた恩人だと、私的にも公的にも語って欲しくはない、自分は多くの人の犠牲の果てに生存していたにすぎないのだという意思表示の一つのように感じました。
または、おそらくあの出来事で人生観をひっくり返されるような経験をした運転手は、ただただ疲弊して、静かに生きていきたいと願ったのかもしれません。
謝礼を受け取る気がなかったから
50代男性
主人公が最後に偽名を伝えたのは、謝礼を受け取る気がなかったからではないでしょうか。
彼は家賃も払えず、娘に新しい靴も買ってやれませんでした。
生活に困り、どちらかというとお金に執着している様子でした。
デモをしている学生たちの意見を知りもしないで、自分の生活の邪魔になるからと、頭から否定していました。
そういう人物でしたが、この一件を通して成長したのだと思います。
学生をはじめとする光州の人々と交流し、彼らの闘う姿を見て、さらに彼らの痛みが全く知られていない状況を知り、彼は変わったのです。
彼は自国の真実を世界に伝えてくれる記者を運び、軍に撃たれた怪我人を助けました。
それらの自分の行いは、決してお金のためではなく、苦しんでいる国民のために善意でやったのだ、と表現したかったのではないでしょうか。
印象に残っているシーン
映画『タクシー運転手~約束は海を越えて~』で印象に残っているシーンを教えていただきました。
ソウルに帰ろうとする途中でお昼ご飯を食べるシーン
20代男性
主人公が一度記者に隠れて1人ソウルに帰ろうとして、止まった町で昼ごはんを食べるシーンが印象的でした。
光州について話している3人が、人伝から聞いた軍人が国民を撃ったという情報と、ニュースとして流れている"反社会勢力が軍に攻撃している"という情報を交換している姿を見ます。
現状を知っている主人公が、なんとも切ない表情を浮かべる。
その後お腹空いてるのね、とサービスでもらったおにぎりを見て、「腹が減っては戦はできぬよ!」とヒーローのように出迎えてくれた娘からもらったおにぎりを思い出し、光州の人たちの優しさやその人たちが置かれている現状に思いを巡らします。
娘のために帰ってやりたい、自分がいなくなれば彼女は本当の1人になってしまうという思いと、光州の人たちを思ってこの現状を変えられるチャンスを自分が逃げることで失うのではと言う大義と。
自分が一体どうしていいのかわからないという葛藤を抱くシーンが1番印象的でした。
帰りの道中で検問に止められ見逃されるシーン
30代女性
帰りの道中で検問に止められ、見逃されるシーンが最も記憶に残っています。
数々のピンチを乗り越え、やっとここまでたどり着いた矢先…!検問に止められもうダメかと思いました。
タクシーのトランクを開け、中を検めて、あの検問官はきっとこのタクシーが通してはいけないものだという認識があったはずです。
しかし止めようとする部下を半ば強引にいさめて、タクシーは検問を見逃されます。
この時の検問官の行動の意図について、映画本編では特に言及されていません。
個人的にはあの検問官役の役者さんに、監督からどのような指示があったのか知りたいところです。
この検問官のタクシーの見逃しや、ラストで主人公が偽名を名乗るシーンなど、映画の鑑賞後も深く考えてしまうような余韻を残す点がとても魅力的に感じました。
絶望感のない不思議で"小さな裏切り"がこの作品を心に残すポイントかなと思います。
軍人たちが民衆を暴力で押しつぶしていく場面
40代女性
軍人たちが民衆を圧倒的に暴力で押しつぶしていく一連の場面がひたすらに恐ろしかったです。
さほどの昔でもない時代に、隣の国でこういう事件が起こっていたことすら知らなかったので、衝撃でした。
それも南北との戦争でなく、自国民同士の争いで、ここまで無慈悲な顛末となっていたとは思いませんでした。
年若い青年たちが立ち向かっては頽れていき、軍人は数と力でひたすらに蹂躙していく。
戦争は今でも世界中で起こり続けていて、他人事ではないとわかっていても、同じ言葉を話す人々でこれまで残酷になれるのかというのが衝撃でした。
韓国の民主化や平和が訪れたのは思っていたよりもずいぶんと近い時代だった、そういう隣国の歴史をもっと知らないといけないと思わされました。
ソウルに戻りかけた主人公が食堂に寄った場面
50代男性
最も印象に残っているのは、ソウルに戻りかけた主人公が食堂に寄った場面です。
光州で一般人が軍に殺されているという店員の話は、客たちに信じてもらえません。
テレビも新聞も事実を伝えずに、軍の都合のいい発表をそのまま流すだけになっていたからです。
主人公が命からがら実際に体験してきた惨状が、正しく報道されないために、他の地方の人々に全く伝わっていないのです。
なんて怖いことでしょう。報道の重要性は、決して事件当時だけで終わるテーマではないはずです。
メディアリテラシーの大切さを改めて痛感しました。
このような報道が繰り返されることのないよう、願わずにはいられません。
そういう面でも、この映画の意義は大きいと思います。
映画『タクシー運転手』が好きな人におすすめの他の作品
映画『タクシー運転手~約束は海を越えて~』がお好みの人におすすめの映画作品を教えていただきました。
AIR/エア
20代男性
この映画が好きな人が伝記を元にした話が好きと言う人であれば、『AIR』という映画を勧めたいです。
NIKEがエアジョーダンという大ヒットシューズをいかにして作り上げたかという作品です。
マイケル・ジョーダンは一切出てくることなく、ひたすらNIKEがジョーダンと契約しようとする様を描いた映画です。
ひたすらに熱血な男たちがNIKE復活のため、ジョーダンのためにバスケットボールシューズを作るというお話で、罰金があるなら我々が払うよ、ブルズと彼をイメージした彼のためのシューズ!
そういった熱い思いを描いているのは今作のジャーナリストのジャーナリズムに重なる部分があると思います。
モルガディシュ 脱出までの14日間
40代女性
『タクシー運転手』と同様に実際の事件をもとにした映画で、近い時代を舞台にした、ソマリア内戦に巻き込まれた韓国と北朝鮮の人々の脱出劇を描いた作品です。
韓国と北朝鮮はいわずもがなの緊張関係にありつづけていますが、その国情あっての微妙な両者の腹の探り合いと、それでも生き残るために互いに協力していく流れが緊迫感あふれる流れで描いています。
こちらでも内戦状態にあるソマリアでの悲惨な国民の様子も描かれ、戦争の酷さを改めて感じさせられました。
シリアスにリアリティあるタッチで暴動を描きつつ、南北間の人間の親愛の不器用な育み方と、派手なアクションシーンも絡め、娯楽作品としての側面も持たせてあり、深みのある充足感を感じた映画でした。
82年生まれ、キム・ジヨン
50代男性
『タクシー運転手』が好きな人には、同じ韓国映画の『82年生まれ、キム・ジヨン』をおすすめしたいです。
ヒロインのジヨンは、女性であるために日々のさまざまな場面で不便な思いをしたり怖い目に遭ったりします。
結婚を機に仕事を辞めなければなりませんでしたし、嫁として親戚関係の中で忙しく働かなければなりませんでした。
日本と似た生活が進んでいきますが、嫁姑問題あたりは日本より厳しそうに見えます。
つまり韓国映画は、歴史的な事件を扱った『タクシー運転手』のような映画だけではなく、日常を描いた物語の中でも社会問題を取り上げているのです。
韓国映画の幅の広さと韓国映画関係者の意志が感じられるのではないでしょうか。
『82年生まれ、キム・ジヨン』配信関連記事
こちらもCHECK
映画『82年生まれキム・ジヨン』配信はNETFLIXやAmazonプライムどこで見れる?
続きを見る
まとめ
『タクシー運転手』の
- 考察&解説
- 印象に残ったシーン
- この映画が好きな人におすすめの作品
についての解説と考察でした。
新たな視点や納得のいく考察はありましたか?
ぜひ『タクシー運転手』と一緒にチェックしてみて下さいね。
\配信状況はこちらでチェック/
映画『タクシー運転手』NETFLIXやAmazonプライムで配信見れる?